CV黒鉛鋳鉄(CGI)の製造について
始めに
CV黒鉛鋳鉄は、ねずみ鋳鉄(FC)とダクタイル鋳鉄(FCD)の中間的な物性を示すため、中途半端な材料という見方と、FCの強度を合金なしで手軽に増加できる新たな手段との見方があります。
黒鉛形状は、FCが片状黒鉛、FCDが球状黒鉛に対してCV黒鉛は芋虫状の黒鉛であり、この黒鉛形状が、鋳物の特性に大きく影響しています。
CV黒鉛鋳鉄は、欧米では「CGI」と呼ばれ、シリンダ・ブロックやヘッド等の自動車部品への適用が進んでいます。 これには、次に様な理由があります。
- 排ガス規制に対応するため高い筒内圧が必要。(ジーゼルエンジン)
- 合金添加による強度のUpが限界にきている。
- ヘッドでは、素材の高い熱伝導率がヘッド下面温度の上昇を防ぐために不可欠である。
- 素材の減衰能だけでなく、ブロック・ヘッドが構造体としての剛性が振動減衰に効果がある。
これまで発表になったCV黒鉛鋳鉄の特性を図表をまとめました。(ダウンロード[pdf 形式])
CV黒鉛鋳鉄と他の鋳鉄の特性の違いは、以下のサイトを参照して下さい。日産ディーゼル様では、GE13大型ディーゼルエンジンのヘッドにCV黒鉛鋳鉄を採用しています。 CV黒鉛鋳鉄の製造に関しては、SinterCast、 NovaCast(ともにスウェーデン企業)は、CV黒鉛鋳鉄のプロセス制御を販売しています。 CV黒鉛鋳鉄の製造が、特に黒鉛球状化率を20%(熱伝導率、湯流れ性、減衰能などの特性を生かすために制限される)に制御し、片状黒鉛が0%と限定された場合は、量産製造がいかに困難かを示しています。
本稿では、筆者がCV黒鉛鋳鉄で海外も含め、10数箇所の鋳造工場で数百個のエンジンブロック、ヘッドを鋳込んだ経験から、CV黒鉛鋳鉄の製造に関する注意点やSinterCast、NovaCastの技術を紹介して、これからCV黒鉛鋳鉄の製品にチャレンジしようとする、あるいは製造上の問題を抱えている鋳造工場の現場エンジニアの皆様のお役に立てればと思います。
なお、ご意見・ご質問があれば、遠慮なくメールを下さい。 解る範囲でお答えしたいと思います。
- 特性の優れたCV黒鉛鋳鉄とは、
黒鉛球状化率が約20%以下(球状黒鉛が20%で残り80%が芋虫状黒鉛)、10%以下が理想です。 もちろん、片状黒鉛が無いことが前提です。 球状化率をこの範囲に制御することで、熱伝導率、減衰能がFCのそれに近く、強度要因(引張り、ヤング率等)がFCDに近いものになります。 パーライト率は、60〜100%で製品の要求によって、Cu及びSnで制御します。
- 成分範囲
製品成分 元湯成分 成分 最小 〜 最大 目標 C 3.60 〜 3.80 3.70 Si 2.10 〜 2.40 2.00 Mn 0.20 〜 0.45 0.30 P < 0.030 0.030 S < 0.010 0.010 Mg 0.008 〜 0.018 球状化処理 黒鉛形状 Sn 0.03 〜 0.10 取鍋添加 パーライト率調整 Cu 0.50 〜 1.20 取鍋添加 パーライト率調整 REM 0.01 〜 0.04 取鍋添加 黒鉛形状、フェーディング防止サンドウィッチ法であれば、溶湯量の0.15〜0.25%の接種剤を球状化剤の上に、更にカバー剤で覆い、直接溶湯が触れないように出湯します。
元湯成分は、接種剤や球状化剤からのUp分を加味して決定します。出湯温度は、1480℃〜1530℃
鋳込み温度は、1380℃〜1430℃
これら条件は、製品によって多少変わります。球状化剤添加量の決定
ここで、
ML:レードル処理量(Kg) %S:溶湯中の硫黄含有量(%)
Mgres:残留マグネシウム量(%) gRE:RE(ミシュメタル)添加量(g)
ηRE:REの歩留まり(小数表示) ηMg:Mgの歩留まり(小数表示)
%Mg:FeSiMgCe中のMg含有量(%) %RE:FeSiMgCe中のCE含有量(%)p>
プロセスコントロール―SinterCast の方法
SinterCastのプロセスコントロールは、「熱分析による鋳鉄の黒鉛形状の判定」でも述べていますが、独自のサンプル容器(熱電対が中央と壁面の2箇所)にMg処理済の溶湯を採取し、熱分析によって溶湯の状態を調べます。 通常は、サンドウィッチ法で若干処理不足の溶湯を製造し、熱分析で不足分のMg合金、接種剤の量を計算してワイヤーで追加します。
赤の冷却曲線は、サンプル容器の中央で、青は、壁面近傍の冷却曲線です。 CV黒鉛鋳鉄では、FCやFCDと異なり、共晶反応が大きく過冷します。これは、共晶反応で黒鉛が晶出するための凝固核がFCの場合と異なるためです。
青色の冷却曲線は、中央より冷却速度が大きいのと対流の効果によって、取鍋のMg含有量の少ない(0.003%程度)溶湯を熱分析したことになります。 もし、Mgの量が不十分であればここの壁面近傍では片状黒鉛が晶出します。 適切な処理が行われた場合は、初晶オーステナイトが晶出することになります。 SinterCastでは青色冷却曲線を微分した曲線の面積をパラメータとしていますが、厳密には「鋳鉄鋳物のための状態図と熱分析」 で述べたCA-DTA法によって、最初(初晶)の温度停滞が、オーステナイトであるのか片状黒鉛であるのかを判定して、片状黒鉛である場合はその量を計算することで、溶湯が鋳込まれたときの片状黒鉛が晶出する可能性を判断すべきであると考えます。
一方、赤色冷却曲線では重要なパラメータは、過冷度と再輝速度になります。
この場合も、微分曲線の面積をパラメータに加えています。SinterCastの方法は、溶湯を補正するワイヤー添加量を決定するための検量線を作成するには、製品毎に多くのデータが必要です。 しかしながら、上記の熱分析曲線で溶湯がCV溶湯となっているか、片状黒鉛および球状黒鉛の晶出の可能性を判断する優れた方法といえます。
プロセスコントロール―NovaCast の方法
NovaCastの方法は、元湯の酸素濃度を適切に調整することで片状黒鉛の晶出を防ぎ、CV黒鉛の晶出を優先させます。SinterCast の創始者であり、NovaCastのPQ-CGIの提唱者であるバッケルード博士によと、
片状黒鉛鋳鉄
通常、核形成粒子は飽和SiO2(クリストバライトまたはトリジマイト)からなり、
これはケイ素と酸素の含有量が高いときに形成され、SiのSiO2への反応は通常の鋳造温度範囲内で生じ、そして黒鉛結晶とクリストバライトの間には良好な格子整合(エピタキシー)が存在する。SiO2粒子の形成は、動力学的な理由により、Al2O3のような安定な酸化物粒子の存在によって促進される。
CV黒鉛鋳鉄(FCV、CGI)
CV黒鉛鋳鉄においてはSiO2粒子は核形成粒子としてはあまり効果的ではなく、様々な形態のケイ酸マグネシウムが効果的であることが見いだされている。SiO2が存在する場合、片状黒鉛が核形成する大きな危険性があり、これはCV黒鉛鋳鉄の品質を損なう。しかし、ケイ酸塩の粒子は芋虫状黒鉛の結晶のための良好な核形成剤であり、この結晶は、融液のマグネシウム処理後に残っている酸素の含有量が通常20〜60ppmの適当な範囲に維持されている場合は、十分に生成する。
球状黒鉛鋳鉄(ダクタイル、FCD)
どのような種類の核形成粒子が球状黒鉛粒子の成長を引き起こすのに最も効果的であるかは全く明らかになっていない。この黒鉛粒子は、5〜10ppmの残留酸素濃度までの強い脱酸のために、球状に生成する。
上のことから、明らかに、ねずみ鋳鉄とCV黒鉛鋳鉄においては核形成粒子は脱酸生成物からなり、ねずみ鋳鉄 においてはシリカ(SiO2)が優先的であり、CV黒鉛鋳鉄においては、マグネシウムの添加後は、ケイ酸マグネシウムの粒子からなる。ケイ酸マグネシウムの粒子は、核として活性化する前に大幅な過冷を必要とします。
2つの重要な温度
鋳鉄の溶湯では、炭素とSiO2の反応(式(1))は、非常に重要です。
溶湯温度(TMとします)がTEQL以上なら 、SiO2の還元反応が起こります。
SiO2+2C → Si + 2CO従って、SiO2、MnOのような酸化物は減少します。 溶湯温度がTEQLより低ければ、酸化物が生成し始めます。 この温度以下で酸素のピックアップは殆どありません。 温度がTEQLの50℃以上に上昇したとき、溶湯は酸素をピックアップし始めます。(古い公式(1955年のK. Orths)ではTEQLのおよそ20℃上とされています)
SiO2+2C = Si + 2CO ・・・・・(1) ・・・・・(2) 式(2)で表されるTEQLを平衡温度とするなら、溶湯がCOの放出により沸騰する温度を沸騰温度(TBoil)は、次式で表すことが出来ます。
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もし、溶湯温度TMがTBoil 以上なら FeO+C → Fe +COとなり、この温度以上で溶湯中のフリー酸素は急激に減少します。 もしTMがTBoilの約50℃以上なら、およそ20分後には酸素量は非常に低いレベル(5ppm以下)になります。 そのとき、溶湯の核生成能力は非常に小さくなります。
NovaCastの方法では、次の工程を経てCV黒鉛鋳鉄を製造します。
@ TEQLを1400℃近傍になる様に%Cと%Siを調整します。
ただし、%Si は添加剤によりUpするので、製品目標値よりは低めします。A 溶湯温度(TM)を下記の条件で保持します。
TM > TEQL + 20, TM < TBoil - 10
この工程は、SiO2+2C → Si + 2CO の反応を促進させ、片状黒鉛の凝固核の危険性
が高いSiO2粒子を低減すると共に溶湯の脱酸が目的です。B Aで脱酸された溶湯は、出湯時、鋳込時に周囲の空気や鋳型から酸素をピックアップし易い状態で、接種剤によるSiと黒鉛球状化剤による脱酸・還元反応によって、CV黒鉛の凝固核となるマグネ シウム含有珪酸塩の粒子を形成させます。このとき酸素のピックアップによって確保されるべき酸素量は50〜100PPM以上であり、球状化剤によって10〜20PPMまで還元されます。
製品中の酸素量は、黒鉛球状化率20%以下のCV黒鉛鋳鉄では、
モジュラス(cm) 肉厚(mm) 酸素濃度(PPM) 0.5 〜10 40〜60 0.5〜1.0 10〜20 30〜50 1.0〜 20〜 20〜40
CV黒鉛鋳鉄の酸化物スペクトルの一例、(Mg,Fe)2[SiO4]が見られます。 上記Aの工程で、ATAS(エータス、NovaCastの熱分析システム)を用い溶湯が確実にCV黒鉛が晶出する様に指示を出します。 これら、システムを総合して、PQ-CGIとして、インモールドでもCV黒鉛鋳鉄が確実に製造可能となっています。
独自のプロセス制御の開発
ATASもSinterCastのSystem2000も優れた方法でありますが、初期投資及びランニングコストの面では、必ずしも満足できるものではありません。
ランニングコストが上昇するとFCD製製品のコストダウンの目標が失われ、FCの強度アップとしての売り込みも難しくなります。
筆者の個人的な意見ですが、夫々の鋳造工場で独自の制御方法を開発すべきと考えます。
「鋳鉄鋳物のための状態図と熱分析」 で述べたCA-DTA法によって、CV黒鉛鋳鉄のプロセスコントロールは可能と思われます。
上図は、筆者が以前作成したCA-DTA法を用いて溶湯の性質を判定するプログラムですが、同様のプログラムで元湯の性状を把握し、黒鉛球状化剤・接種剤の添加量を決定することが可能です。
ただし、一般のCEメータとは異なり、分析にはTe(テルル)の入らないカップを使用します。
これらのプログラムを開発するためには、多くの実湯データが必要となりますので、カップメーカ単独での開発は困難で、鋳造工場との協力が必要と思われます。
日本で、主に市販されている円柱型の熱分析用カップは、冷却が早く過冷を観察するには少々不向きです。 欧米で使用されている角型カップは容量も大きくモジュラスが1cmであり、明確に溶湯の性質を検知できます。この角型カップはクイック・カップと呼ばれ、世界シェアでは約70%ほど使用されているそうです。以前はエレクトロナイト社でしたが、現在は買収されて、Heraeus社で販売されていますが、日本国内では入手が困難です。
その他、CV黒鉛鋳鉄のプロセス制御について質問やプログラムの作成が必要な場合はメールでご連絡下さい。
鋳鉄鋳物のための状態図と熱分析
熱分析による鋳鉄の黒鉛形状の判定
熱分析による鋳鉄成分の推定
上記のページも参照下さい。
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