鋳鉄鋳物のための状態図と熱分析 

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始めに 

鋳鉄鋳物の製造現場では、簡便でコストの安い熱分析を用い、溶湯のCE値、%C及び%Siの値を2〜3分で判定し、溶湯と鋳造品の性質を予見して、適切な溶湯処理を行います。 このような成分分析に使用される熱分析カップにはテルルが添加され、鋳鉄溶湯を強制的に準安定系のセメンタイト共晶反応を起こし凝固させます。(後述) 本稿では熱分析を状態図との関係から説明し、上述の成分分析以外にもCV黒鉛鋳鉄(CGI)製造などへの利用を提言するものです。 説明は、鋳鉄を素材として利用する設計部門の技術者の方にも気軽に読んで頂けるように、出来るだけ冶金的知識の前提なしに記述することを心がけました。

  1. 状態図と冷却曲線の見方

    下図の左側は、合金状態図と呼ばれるチャートであり、説明のため単純な2成分(2元素の状態図を2元系と呼びます)共晶型を示します。 右側のチャートは、砂(シェルモールド)でできたカップに、ある成分(C0)の溶融している合金(以後溶湯と呼びます)を注ぎ込み、その冷却過程を時間に対してプロットした冷却曲線です。

1. 2元系状態図と冷却曲線

図中の記号は以下の通りです。
       α,β:             成分Aに成分Bが溶解している固体なのでα固溶態と呼びます。β相も同様。
       T0〜T4:          冷却過程にある溶湯の温度。
       Cα1〜Cα4:   α相の成分Bの濃度。
       Cβ3〜Cβ4:   β相の成分Bの濃度。

 カップに溶湯が注がれると、カップ内の熱電対でその温度が検出できます。
T0はそのときのピーク温度です。 溶湯はカップの壁や大気に放熱し冷却されて温度T1に到達します。 これまで均一な溶融体(濃度CL1)であった液相Lから濃度C1のα相が晶出します。 液体から固体への変化には凝固潜熱と呼ばれる熱の放出がなされ、冷却による温度降下と凝固潜熱による放熱とのバランスが冷却曲線上に温度停滞点として現れます。 この温度をα相が最初に晶出した温度なので初晶温度と呼びます。 周囲への放熱が凝固潜熱の発熱より大きくなったとき溶湯は再び温度降下し、α相と液相Lの濃度と割合を変化させながら温度T2に到達します。 この温度ではα相の濃度は曲線Cα1→Cα2に沿って変化します。 この曲線はα相への元素Bの固溶限界を示す事になります。 同様に液相Lに含まれる元素Bの濃度もCL1→CL2へと濃化されます。
 この時点でのα相と液相Lの量比には、

     α相 : 液相L = (CL2-C0) : (C0- Cα2)

の関係(てこの関係)があります。 温度T3に到達した時点では濃度Cα3のα相と濃度L3の液相Lの割合は、

     α相 : 液相L = (CL3-C0) : (C0- Cα3)

となります。 状態図上に共晶点と表記されている点(CL3)は、濃度CL3の液相Lがこの温度に到達したときに液相Lから濃度Cα3のα相と濃度Cβ3のβ相が同時に晶出する共晶反応が起こる濃度と温度を示しています。 この時の量比は、

     α相 : β相 = (Cβ3-CL3) : (CL3- Cα3)

となります。 つまり、温度T3に到達した時点で初晶のα相と共存している液相Lが共晶反応によってα相とβ相に同時に晶出が起こり、初晶反応と同様に凝固潜熱の放出が冷却曲線上に温度停滞点を示します。 この温度を共晶温度と呼びます。
液相L全てが共晶反応を終了した時点では、濃度Cα3のα相と濃度Cβ3のβ相が

     α相 : β相 = (Cβ3-C0) : (C0- Cα3)

の割合で存在することになります。
共晶反応は冷却曲線上で「経路2」を経て反応を終了する場合もあります。 これは、共晶反応が起こる温度に到達しても反応が起こらず度に却されてから反応が起こるので過冷と呼ばれ、本来の共晶温度との差を過冷度と呼んでいます。 温度が更に冷却され、T4に到達しても上記の「てこの関係」は維持され、α相とβ相の濃度はCα3→Cα4、Cβ3→Cβ4に沿って変化していきます。 以上の冷却による相の変化を模式的に下図に示します。


     
                             図2. 冷却過程での組織変化


2.   -炭素二元系状態図
前章での説明で鋳物の範囲内での状態図は充分に理解できます。 下図はFe-Cの状態図ですが、C(炭素)の析出(晶出)の形態がグラファイトの場合、安定系と呼ばれ、炭化物(Fe3Cセメンタイト)の場合は準安定系と呼ばれています。

                               図3. 鉄-炭素2元系状態図

図では、黒実線が安定系で、黒点線が準安定系を示しています。
また、計算式は実際の鋳鉄がSiを多く含む多元系の合金であるため、第3元素による液相線、固相線、共晶温度などの公表されている実験式を記載したものです。

3.状態図と熱分析

     図中の青い線は、共晶点よりも炭素量が少ない(亜共晶組成と呼ばれています)溶湯の冷却を示しています。 同様に緑色の線は共晶組成の、赤は共晶点よりも炭素量が多い(過共晶組成と呼ばれています)溶湯の冷却を示しています。

(1) 亜共晶組成
Aの温度で初晶である濃度C2のオーステナイト(γ)相が晶出し、その後、木の枝のように成長するので樹枝状晶(デンドライト)とよばれる組織となります。 共晶温度に到達するまでは、2で述べた「てこの関係」をオーステナイト相と液相との間で維持しながらオーステナイト、液相共に炭素の濃度が高くなっていきます。 直線aの安定系(黒鉛)共晶温度Bに到達したときに共晶反応が起こるはずですが、実際には、更に低い温度で起こります(下図参照)。 この現象は「過冷」と呼ばれ溶湯の共晶凝固核の生成能力や成分、冷却速度に関係します。 また、過冷によって共晶温度以下になった温度が上昇に転ずることを「再輝」と呼びます。 白鋳鉄のように共晶反応が炭化物(セメンタイト)で晶出する場合は、温度Bで黒鉛が晶出せずにB’でオーステナイトとセメンタイトの共晶(レデブライト)を晶出します。 この共晶反応は、通常、過冷を起こしません。

          図4.市販のカップ(カットモデル)      図5. 実際の冷却曲線

従来の成分(CE値、%C及び%Si)のための熱分析は、
     @ 共晶温度の判定が安定系(黒鉛共晶)では、過冷、再輝の程度が特定できず、困難
     A 共晶温度と成分との間の経験式が準安定系の方がより相関が高い
の理由から、カップ内の溶湯をテルルで強制的に白銑(炭化物)共晶反応を起こさせて、分析をしています。このとき、Fe-Cの2元系共晶点は%C=4.26から4.30に亜共晶範囲を広げます。 熱分析でパーライト率を判定するには、共析反応の起こる温度C及びC’と、その前後の冷却曲線の形状によって判断が出来ます。 この場合は、テルルの入らないカップで測定します。

(2) 共晶組成
図3の状態図で、緑色の線は、共晶成分の溶湯を冷却したときの過程を示しています。 共晶成分であるため、液相から直接共晶組織が晶出します。 従って、亜共晶の時のようにオーステナイトの晶出による初晶温度が現れません。 上述したように、同じ溶湯を白銑化した場合はCE値が4.3まで初晶温度が判定できます。 

(3) 過共晶組成
 
図3の赤線が過共晶溶湯の冷却過程を示します。 ただし、冷却の様子は、球状化処理が行われているか、FCか、FCDかCGI(FCV)かによって変ります。 黒鉛の球状化の機構は諸説あり、未だ確定されたものがありませんが、独断で気泡説と核説の中間的な立場で解説していきます。 

(イ) 過共晶のFCまたは未処理のFCDまたは未処理のCGI溶湯の場合

 例えば、FCDの元湯。 あるいは、何らかのトラブルで充分に球状化処理剤の効果が無かった場合に相当します。 溶湯が温度Aに到達したとき、初晶グラファイトが晶出しますが、量が僅かなため、市販のカップを使用した冷却曲線上には明確な温度停滞点が現れません。 また、溶湯中の過飽和な炭素は自由界面で黒鉛として晶出し、キッシュ黒鉛となります。 温度の低下に伴い溶湯の炭素濃度は黒鉛液相線に沿ってAからAに変化します。 黒鉛共晶温度aに到達した溶湯は多少過冷を起こしてから共晶反応を起こします。 この時の過冷度は、(2)で述べた共晶組成の溶湯よりは小さくなります。

(ロ) 処理済のFCD溶湯の場合

中江らは、直径0.5〜1.0ミクロンの球形のMgSまたは(Mg・Si・Al)Nが核として作用し球状黒鉛が生成されるとしており、核は黒鉛が核生成したとき球状の液体であり、黒鉛との結晶整合性には問題が無いとしています。 一方、気泡説では、過飽和の炭素が自由界面である気泡内面に晶出するとしています。 黒鉛の球状化メカニズムの議論は、本稿の目的ではありませんので、 結果として得られる冷却曲線の検証すると、温度@の処理済溶湯は温度の低下に伴い、その炭素含有量が黒鉛液相線に沿ってAからAに変化します。 このときの冷却曲線は、(イ)の場合より過冷温度が若干低いものの、曲線の形状は酷似しています。

(ハ) 処理済のCGI溶湯の場合

温度@の処理済溶湯は、(ロ)の場合とは異なり、温度の低下に伴い、AからBCへと変化します。 AおよびBでは、冷却曲線上には特に大きな変化は見られませんが、Cでは亜共晶溶湯のように初晶反応でオーステナイトを晶出します。 これは、FCDでは溶湯の炭素含有量が黒鉛液相線に沿ってAからAに変化するのに対して、CGIではあたかも溶湯の炭素溶解度が増大したごとく振る舞い、Dの温度以下で過冷を起こすまで、炭素がグラファイトとして晶出出来ないような現象です。  言い換えますと、Mg処理によって、溶湯は炭素の溶解度を増大しますが、FCDでは溶湯中に多くの気泡や核が存在するため、これらに炭素が初晶グラファイトとして晶出して溶湯中の炭素濃度を変化させることが出来ます。 一方、CGIではそのようなサイトが少なく炭素濃度は余り変化せずに、Cの温度に達し、オーステナイトを晶出すると、考えます。

以上の冷却過程と冷却曲線の関係を図6に示します。

                    図6.過共晶溶湯の冷却曲線

図からも明らかのように、FCとFCDの区別は困難ですが、CGIとFC,FCDの区別は容易です。従って、CGIの溶湯管理に熱分析が有効であること示唆しています。

4. 熱分析から得られる情報-- CA-DTA

前述のように、熱分析では、成分(CE値、%C及び%Si)を推定するために使用するテルル入りカップと、CE値と冷却曲線から得られる情報で溶湯の性質を判定するテルルが無いカップが利用されています。 本節ではCA-DTA(コンピュータ利用の示差熱分析)の利用について説明します。 金属のような良好な伝導率をもつ物質の加熱及び冷却での周囲への熱損失速度はニュートンの則によると、次式で表されます。

(1)

記号は、

: 周囲への熱損失速度(cal/秒)

: 周囲への熱損失係数(cal/cm2

A

: 表面積(cm2

T

: ある瞬間の温度(℃)

T0

: 周囲の温度(℃)

:

時間(秒)


一方、金属の冷却による放熱速度は熱収支より、

 

(2)

ここで、

V

: サンプルの体積(cm3

ρ

: 密度(g/cm3

CP

: 比熱(cal/g℃)

もし、凝固中に晶出相が無ければ、式(1)=式(2)となり、

(3)

これは、晶出相の無い場合の冷却曲線(ゼロ・カーブ)の微分値であり、これを積分すると、

 

(4)

ここで、

: 最大または初期温度

 熱分析曲線の共晶凝固以降の部分は相変態が無い部分でありゼロ・カーブを得るために、この範囲の冷却曲線から得られたデータを使用することが出来ます。(図7赤丸参照)式(4)から、

 

(5)

式(5)を時間で微分すると、

(6)

熱分析より得られた共晶凝固後の冷却曲線から得られる微分曲線から、係数A,Bは求めることが出来ます。 相変態を考慮すると、式(2)は次式(7)で表されます。

 

(7)

は、相変態の潜熱による総熱量です。

 式(1)と式(7)から、

 

よって、

(8)

式(8)の は、冷却曲線の微分(冷却速度)曲線を表し、式(3)の はゼロ・

カーブの微分曲線を示しています。

式(8)−式(3)より、

 

(9)

  添え字CCは冷却曲線、ZCはゼロ・カーブを表します。式(9)を積分すると、

または、

(10)

             ただし、 は、潜熱を表します。

 図7.冷却曲線と微分曲線

式(6)の係数A,Bは図7の赤丸内のデータで計算出来ます。

次に、熱分析曲線と微分曲線で得られる情報を図8のパラメータを用いて説明します。

 図8 ゼロ・カーブとパラメータ

図中のピンクの曲線は青の冷却曲線を微分した微分曲線です。 黄色の線はゼロ・カーブであり、上述で検証したとおり、この2曲線の間の面積はカップ内の鋳鉄が凝固に際して外部に放出した熱量です(式(10))。赤の縦線R1からR4及びG1からG3の縦線は凝固過程を説明するために設けた便宜上の線で時間を表します。冷却曲線は記録をカップ内に注湯して熱電対が1000℃以上を検知してからの曲線を示しています。 熱電対が検知した温度が上昇から下降に転じたとき(G1)から初晶温度を検出するまでの時点(R1)はオーステナイト(デンドライト)の核生成が、R1からG2はデンドライトの成長が主要因の発熱と考えられます。 この例では見られませんが微分曲線上のG1-R1間に小さな瘤が現れる場合がある。 これには「MnSの凝固潜熱」、「カップ表面での粗大化したオーステナイトの凝固潜熱」であるとの2説があり、実際に独の鋳造会社フリッツ・ウインタ社では脱酸剤入りの熱分析用カップと無添加のカップで得られた熱分析曲線から、この小瘤の面積を比較することでCV黒鉛鋳鉄やダクタイル鋳鉄の球状化剤の歩留まりを予測し、残留Mgをコントロールしています。 G2は微分曲線が正方向に上向きはじめる時点で、カップ底部及び外壁近傍で共晶反応が開始し、その凝固潜熱がカップ中央部の熱電対で検知し始めたことを意味します。 この時、どの程度の初晶オーステナイトがデンドライトとして晶出しているかは赤、黄色曲線とG1とG2に囲まれた面積S0を解析することで可能と考えます。 G2の冷却速度と黒鉛共晶温度及び、別のテルル入りカップで得られたレデブライト共晶温度を用いてチル化の臨界冷却速度を求めることが出来ます。 また、初晶オーステナイトの核生成量と、G2-R2間で起こる共晶セルの生成に関するパラメータ(発熱量、温度及び時間など)で鋳鉄がA型黒鉛か過冷黒鉛によるD型かが判定できる可能性があります。 R2の温度は共晶セルの核生成・成長が活発化し、冷却と発熱が等しくなったときです。 これ以降、R3までは凝固潜熱による発熱が周囲への放熱を上回る期間で、R2-R3間は、共晶セルの成長による発熱で、微分曲線上のG3の点は成長速度が最大となる時点です。 熱分析で行うダクタイル鋳鉄の黒鉛球状化率判定では、この値が最も球状化率と相関がある説明変数になります。 R2、R3の冷却曲線上の温度は、それぞれ「過冷最低温度」、「再輝最高温度」と呼ばれ、黒鉛共晶温度とレデブライト共晶温度と比較することで接種の状態やチル化傾向を知ることが出来ます。 R3-R4間ではカップ内の液相が少なくなり共晶セルの成長による発熱も少なくなって周囲による放熱が発熱を上回り、R4でカップ内の液相が全て凝固します。 R4の冷却曲線上の最終凝固温度とレデブライト共晶温度を比較することで逆チルの発生の危険性を知ることが出来、また微分曲線のR4を頂点とするV字の角度は、最終凝固時の熱伝導率を表し、ポロシティが熱電対近傍に存在すれば、この角度は大きくなります。 また、測定対象が亜共晶FCであれば初晶オーステナイト、共晶オーステナイト及び共晶黒鉛の晶出量がS0〜S3のパラメータで判定でき溶湯が凝固するまでの収縮・膨張の過程を定量化することが出来、必要な溶湯補給量を計算できます。 大和田野らはFCDの黒鉛粒数と固相率との関係を実験的に求め、単位体積中の黒鉛粒数は凝固中一定値を保つとしている。 このことから、核生成はR2までに終了し、以後は黒鉛の成長による凝固潜熱による昇温とすれば、溶湯の核生成能力はS2で比較が出来ます。 これを共晶の核生成及び成長による熱量(S2+S3)で除した値は、溶湯の酸化度のパラメータとして使用できます。



熱分析による鋳鉄の黒鉛形状の判定
熱分析による鋳鉄成分の推定
CV黒鉛鋳鉄(CGI)の製造について

上記のページも参照下さい。

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