熱分析による鋳鉄の黒鉛形状の判定

ノバキャスト ジャパン

目   次

1. 緒言

2. 熱分析による黒鉛形状判定の考え方

2-1.初晶温度

2-2.共晶温度回復時での変曲点での傾き

2-3.TEUとdT/dtとの関係

2-4.共晶最高温度(TER)とΔTとの関係

2-5.微分曲線の利用

2-6.量産ラインでの確認

3. 熱分析による黒鉛形状判定の問題点

3-1.熱分析用カップの性能

3-2.初晶反応

3-3.共晶反応

4. 特殊な熱分析

4-1.BCIRA(ビシラ)による方法

4-2.ビスマス入りカップ

4-3.テルル入りカップ

5. シンターキャストによる方法

5-1.測定用プローブ

5-2.溶湯の評価方法

6. ノバ・キャストの方法

 

参考文献

1. 緒言  

鋳鉄中に内在する黒鉛の形状とその分布は鋳鉄製品の諸性質に重要な役割を果たします。 これを炉前で迅速に測定する熱分析は鋳込み前に鋳造品が所定の性質を持つか否か判断のため、あるいは鋳造欠陥等を低減するために古くから行われてきた手法です。 杉浦 [1] は球状黒鉛鋳鉄の黒鉛球状化率判定方法に関し、それまでに文献に現れた主な例を紹介しています。 これによるとE.F.Ryntz, Jr.らが1971年にAFS Trans.で発表した研究が最も古く、その後約十数年間にわたり多くの研究者により研究されてきました。 一方、この時期、CV黒鉛鋳鉄は片状黒鉛鋳鉄と球状黒鉛鋳鉄の特性を併せもつことからその用途拡大が望まれ、安定的な量産と品質保証を目的とした熱分析による黒鉛形状の判定装置に対するニーズは一層高まりました。 1980年の初頭に杉浦の研究により矢作製作所から黒鉛の形状をイラストで表示する「マイコンダグ」(商品名)が販売されました。 その後、パーソナルコンピュータの普及と相俟って数社より類似した商品が販売され、これらの基本原理はほぼ同じで、まず熱電対(Kタイプ)を組み込んだ熱分析用シェルカップに黒鉛球状化処理済みの溶湯を注ぎ、得られた冷却曲線から、過去のデータより得られた回帰式を用いてシェルカップ内の熱電対近傍での黒鉛球状化率を推定するものです。 日本における最近の研究は(株)ナカヤマとアイシン高丘(株)の共同開発で行われました [2] 。 この方法は冷却曲線をパターン化することと、元湯成分を因子に追加することで判定数値の精度を高めています。

 ここでは熱分析により黒鉛形状を判定する方法について主な文献にみられるキーポイントをまとめて紹介します。

2. 熱分析による黒鉛形状判定の考え方

2-1.初晶温度

図1は熱分析で得られる典型的な冷却曲線です。 図中で初晶オーステナイトの晶出による温度停滞点(TL)が見られますが、この初晶温度が表示されるか否かにより冷却曲線の解釈が異なります。 高炭素当量では初晶オーステナイトの晶出と共晶反応がほとんど同時に起こり初晶オーステナイトの凝固潜熱がその後の冷却曲線に及ぼす影響を考慮しなければなりません。

      図1.冷却曲線の典型的例

また、熱分析用のシェルカップの構造的な特性から初晶温度を表示できない場合もあります。市販されているシェルカップ内に組み込まれた熱電対は線径がΦ0.5〜0.65のK熱電対(クロメル・アルメル)が用いられています。 この熱電対を保護する保護管は正負の素線を電気的に絶縁し溶湯の熱から保護するためのもので、材質はセラミック製のものとパイレックス、バイコール、石英管等を用いたものがあります。 カップ内で起こる凝固過程を検出する上で考慮しなければならない誤差は、保護管の熱間絶縁・保護管及び熱電対を伝わりカップ外へ放熱されるために起こる「熱伝導誤差」と応答性に関する「時間遅れ」です。 熱伝導誤差は保護管のカップ内への挿入長さが径の15倍以上 [3] であれば問題にならず市販のシェルカップもこの条件を満たしています。 時間遅れは保護管の熱伝導率と温接点の保護の状態に依存し、熱伝導率が悪く素線と保護管の重量が重いほど時間遅れは大きくなり、初晶温度を表示できない場合があります。

        図2.初晶温度に及ぼすマグネシウム処理の影響

Chaudrariら [4] が初晶温度に及ぼすマグネシウムの影響を調査しています。 図2はマグネシウム処理後、CE値が4.26〜4.60の過共晶領域にもかかわらず初晶オーステナイトを晶出し初晶温度が現れる事を示しています。この領域(図中斜線部)は一方において初晶グラファイトと共晶反応が同時に起こりうる領域でもあり、不安定な領域でもある。この領域内の溶湯で大型のシェルカップを用い「初晶温度が現れた場合は引け巣が少なく、現れない場合は引けが強くなる」との研究結果もありますが真偽は定かではありません。 [5]

 

2-2.共晶温度回復時での変曲点での傾き

初晶温度を表示後、シェルカップ内の溶湯温度は過冷により共晶最低温度(TEU)までさがり、共晶反応により晶出したオーステナイトと黒鉛の凝固潜熱の放出により共晶最高温度(TER)まで回復します。 多くの研究者はこのTEUとTER間の温度勾配の最大値(変曲点)が晶出する黒鉛の形状により影響されるとしています。 以後この変曲点での傾きを単にdT/dtと表記します。

 図3. 黒鉛の形態と冷却曲線

図3はバッケルードら [6] によるもので、黒鉛の晶出形態により(dT/dt)maxが変わる様子を示しています。 共晶反応の進行が球状黒鉛鋳鉄では球状黒鉛の周囲に晶出したオーステナイト中を炭素原子が固体拡散しなければならず、成長に時間がかかります。 一方、CV黒鉛鋳鉄では黒鉛の周囲全てがオーステナイトに囲まれているわけではなく、一部融液と接しているため成長が早く、冷却曲線は急勾配で回復します。 図4は市販のシェルカップを用いてStefanescuら [7] が得た冷却曲線です。

  図4. 同一組成、黒鉛形態別冷却曲線

下の表は、図4の溶湯のCE値と組織を示しています。   

図中の表示    CE値    組織
球状黒鉛    4.03    84%球状+芋虫
芋虫状黒鉛    4.01    30%球状+芋虫
片状黒鉛    4.01    片状黒鉛

同一の元湯を用いて試験をした図4の結果の方が、概念的な図3よりより的確に黒鉛形状の役割をあらわしていると思われます。 図3ではdT/dtの値はCV>FCD>FC順であり、図4ではCV>FC>FCDの順となっています。 これら2種類の図では比較のため片状黒鉛においても初晶温度が観察されるようにCE値を低く調整されている。 球状黒鉛鋳鉄及びCV黒鉛鋳鉄の実操業において、CE値は4.4以上で鋳造されることが多く、黒鉛形状の判定には過共晶の片状黒鉛鋳鉄溶湯即ち、黒鉛球状(CV化)化処理前の元湯のデータが必要となります。 冷却曲線上では球状黒鉛鋳鉄溶湯とその元湯の間で明確な区別はつかない場合が多くあります。 更にdT/dtはCV黒鉛鋳鉄で最大となり、球状黒鉛鋳鉄と片状黒鉛鋳鉄に差があまり見られません。 これらより、dT/dtの値だけで黒鉛の球状化率を判定することは困難と思われます。 また、多くの研究者も過冷最低温度TEUとdT/dtあるいはΔT(=TER-TEU)との関係で溶湯の種別を判定する方法を提唱しています。

木口 [8] はΔTとdT/dtに強い相関関係を見出しΔTでCV黒鉛鋳鉄の性状を把握出来るとしています。

      図5.ΔTとdT/dtとの関係

この実験に関する限りでは「CV黒鉛鋳鉄はΔTが5℃以上のとき」という簡便的な方法で管理可能となりますが、ここで言うCV黒鉛鋳鉄とは黒鉛球状化率がおよそ0〜40%の範囲のもので、より厳密にCV黒鉛鋳鉄のクラス分けするにはΔTのみでは困難と思われます。

2-3. TEUとdT/dtとの関係

dT/dtによる分類では球状黒鉛鋳鉄と片状黒鉛鋳鉄の区別が困難であるため、TEUを新たな要因として追加し、プロットしたものが図6 [4] です。

図6. 過冷最低温度(Tk)と(dT/dt)maxとの関係

この図からもdT/dtは球状黒鉛鋳鉄と片状黒鉛鋳鉄でほぼ同じレベルであることがわかります。 また、球状の黒鉛の割合が15%以下のCV黒鉛鋳鉄(図中、白三角)と15%〜50%のCV黒鉛鋳鉄(三角中黒丸)ではdT/dtが20〜40℃/分、TEU(Tk)が1125℃〜1140℃の広い範囲で判別が困難であることが確認できます。

2-4. 共晶最高温度(TER)とΔTとの関係

Stefanescuら [9] はTERとΔTに関して図7を得ています。 図の上部はランタン系金属とセリウムで処理したもので、下部はレアアース・シリコン化合物で処理しています。 上下の図から処理剤により材質の範囲が大きく変化しているのがわかります。 図7が複雑に区分けされていることから、これを現場の溶湯管理として黒鉛形態の判定方法に用いるのは、多少無理があると考えます。  図5.のΔTとdT/dtとの直線関係からTERとdT/dtとの関係も同様であると推定出来ます。 処理剤の相異によりこのように判定基準が変動するのは溶湯管理上好ましくなく、実操業でも溶解材料や配合比の変更によっても判定式もしくは基準が変わることはしばしば経験するところです。 これら変動の原因については後述します。

   図7.各種鋳鉄のTERとΔTとの関係

2-5. 微分曲線の利用

更にStefanescuら [10] は各種溶湯の冷却曲線から一次及び二次微分曲線をもとめパターン化しています。 一例を図8に示します。 また、この研究では標準化されたDTA(Differential Thermal Analysis)曲線により、初晶・共晶反応での発熱量も考慮しています。

   図8.冷却曲線と一次・二次微分曲線

2-1.で述べたように初晶オーステナイトの晶出時期とその発熱量はdT/dtに直接影響を及ぼすのでDTA曲線の解析手法は黒鉛球状化判定には不可欠な要素となります。

2-6. 量産ラインでの確認

緒言で紹介したアイシン高丘(株)の栗熊らは球状化処理後に得られた冷却曲線を4種類のタイプに分け、冷却曲線の各特性値を変数としてタイプ別に演算式を重回帰分析により求めています。 タイプ別に演算式を持つことにより、演算により求められた黒鉛球状化率と検鏡によりもとめられたものとの相関係数は、タイプに分けないr=0.604からr=0.777となっています。 さらに処理前の元湯をCEメータでCE値 %C, %Siを測定し、回帰式の変数に加えることによりr=0.985を得ています。 図9は、得られた回帰式を自社も含め5社の量産ラインで確認したものです。 自社工場については±5%の精度が得られています。

 図9. 熱分析法と検鏡法での黒鉛球状化率の比較
         (量産ラインでの確認結果)

図9により、確認された各社間での不一致は溶解材料・配合比・処理剤・処理方法の相異により黒鉛晶出の形態が変動することを示しています。

3. 熱分析による黒鉛形状判定の問題点

3-1. 熱分析用カップの性能

次項で熱分析における初晶反応の影響に付いて述べるが、熱分析による黒鉛形状判定する上で初晶反応による発熱量とその時期は重要です。 従来の解析でこの因子を組み入れ判定している方法はなく、ほとんどは初晶温度そのものを重回帰式の変数としています。 球状黒鉛鋳鉄及びCV黒鉛鋳鉄では高CE値の溶湯を処理するため、初晶温度は共晶温度と近接、もしくは一致しています。 2-1.で述べたように熱電対及びその保護管の形状と大きさ・材質は熱電対測定値の時間遅れ誤差に影響し、初晶温度の検出が不可能である場合もあります。 熱電対そのものの誤差を管理することも重要であるが、それ以上に保護管やカップの材質及び形状等を吟味することが重要です。

製品鋳型に鋳込まれる溶湯には流れがあり鋳型表面はある程度予熱されてから凝固が始まります。 これに対して、シェルカップに溶湯を注ぐとき予熱がなく表面にチル晶が晶出し、このチル晶層が残湯の凝固核として働くので、製品鋳型内で起こる凝固形態と同じであるとは限りません。 この場合シェルカップの容量が小さいとカップ内側表面に出来たチル層の影響は大きくなります。 チル層の影響を最小限にするためにカップ容量を大きくすると冷却速度は遅くなり測定結果を得るためには時間がかかることになります。

精度の良い熱分析を行うためには冷却速度を一定に保たなければなりませんが、冷却速度は溶湯をカップに注ぎ込む温度と室温であるカップの温度差、注ぎ込む速度などに依存する。

以上シェルカップに要求される主な性能は、

  1. 遅れ誤差の少ない構成であること
  2. カップ表面にチル晶層が出来づらい工夫がなされていること
  3. カップへの注湯温度の差を小さく出来ること

です。

3-2. 初晶反応

マグネシウムが含まれる鋳鉄の初晶反応は、図2に示されるようにCE値4.26〜4.60の範囲で不安定です。 一方、dT/dtの値は共晶反応の進行速度をあらわし、共晶黒鉛の晶出形態によって左右されます。 また、この値は黒鉛球状化率の推定のために用いられる変数の中でも計算結果の推定黒鉛球状化率に最も大きく寄与するものです。 CE値が4.50〜4.60付近の初晶反応では初晶オーステナイトの凝固潜熱はdT/dtの値に影響を及ぼします。 この事は図8に示した様な微分曲線を描けば明らかとなります。 即ち、dT/dtの値を評価するためには初晶反応の発熱量を吟味しなければならない。 既述の栗熊らの研究は冷却曲線を4種類に分類し、元湯の熱分析により得られたCE値、%C及び%Siを変数に加えているが、これは間接的に上述の初晶反応の影響を考慮していることとなります。 より直接的にはDHT(Differential Heat Evolved Technique)または、DTA曲線からの解析を行うべきです。 また、マグネシウムの濃度が高く、接種が十分な場合、初晶オーステナイトではなくグラファイト初晶反応と共晶反応が同時に起こり、初晶温度の検出が出来ない場合がありますが、この場合と高CE値による初晶温度停滞点の消失を区別して考えなければなりません。

現在市販されている大部分の黒鉛球状化判定装置は、カップの特性上初晶温度を捕らえられないか、または初晶温度の影響をその形態別に考慮するソフト機能がないため正確に黒鉛形状を予測できないと思われます。

 

3-3. 共晶反応  

ここまでは、黒鉛形状のみについて述べてきましたが、実際は黒鉛粒数により黒鉛形状も左右される。 間接的には、接種が過剰になり黒鉛粒数が多くなると、黒鉛の球状化が進みます。 従来の黒鉛形状判定のために使用されてきたTEUは接種のレベルをある程度あらわしますが、以下述べるように過冷の基準として真の共晶温度が必要であるにもかかわらず、この温度の測定は非常に困難です。 またシリコンの変動による共晶温度の振れも測定される共晶温度に含まれることになります。 過冷最低温度(TEU)は共晶温度からの過冷によるものであり、通常のFe-C-Si 3元系状態図に見られると同様にシリコン濃度に左右されますが、 シリコン濃度だけではなく接種の程度によっても影響を受けます。 接種の機構には諸説がありますが、溶湯中の成分として液相中に含有するシリコンと初晶および共晶反応の核として役割を果たすシリコンとを区別しなければなりません。 糸藤ら [11] は球状黒鉛鋳鉄の球状黒鉛の周囲にマグネシウムハローを観察し、球状黒鉛の生成論として気泡説を主張しています。 処理後の溶湯にマグネシウム気泡が存在するなら、黒鉛は初期の段階に自由界面としての気泡内に晶出します。 接種処理され溶湯にシリコンの偏析がみられますと、この晶出は高シリコン濃度領域内に存在するマグネシウム気泡内に優先的に生成・成長します。 こうして晶出した黒鉛の近傍の溶湯は温度低下に伴い炭素濃度を下げ初晶オーステナイトとして凝固します。 このオーステナイトの殻が完全に黒鉛を取り囲まないCV黒鉛鋳鉄の領域では初晶オーステナイトにより作られた溶湯のチャンネルの中を黒鉛は成長していきます。 未凝固の溶湯がもつ黒鉛凝固核の提供能力、すなわち接種レベルがその後の共晶黒鉛の生成・成長に影響します。 接種レベルが高いとTEUも高く、低いと低くなります、これは溶湯の真の共晶温度に比べてでのことであり必ずしも絶対値を差すものではありません。 ここで真の共晶温度とは過冷が起こらぬように徐冷で凝固させた場合の温度であり、実際に徐冷するとマグネシウム及び接種のフェーディングが起こり測定は困難です。  また、凝固初期の球状黒鉛もマグネシウム濃度が高く溶湯に導入される気泡濃度が高ければ、黒鉛球状化剤・接種剤に含有するSiO2の量とその溶湯中への分散程度が黒鉛の分布に影響します。

4. 特殊な熱分析

鋳造工場での熱分析は主としてカップに塗型状または粒状のテルルを添加して白銑共晶凝固をさせCE値、%C、%Siを推定するために用いられてきました。 同じように、カップ内に特殊元素を入れ従来の熱分析では得られない情報を引き出す試みがあります。 ヨーロッパでは、ねずみ鋳鉄のチル化傾向や溶存酸素量の推定を、接種剤入りカップと通常のカップの2個からAIを用いて判定する装置なども販売されています [12] 。 ここでは、添加元素入りカップを使用して黒鉛形状の判定を行う方法を紹介します。

4-1. BCIRA(ビシラ)による方法 [13]

一定量(例えば、0.035%)のマグネシウムを中和するため予めテルル入りカップに一定量の硫黄またはセレンを収容し、マグネシウム処理後の溶湯をサンプリングしカップ内で凝固させます。 得られた冷却曲線は図10に示されるパターンに分類されますが、b及びcはマグネシウムの量が充分ではなく採取した溶湯中のマグネシウムの大部分は硫黄により中和され残りの溶湯はテルルにより一部または全部が炭化物系共晶として凝固します。 この場合、冷却が早く、一定の温度間(1170℃〜1135℃)を30秒以内に通過すればマグネシウム不足で不合格の判定が下されます。 不合格の場合は試料採取より約1分以内で判定が可能となります。 日本国内で試験販売が行われましたが、合否判定のみの出力なのでなじまず、鋳造工場に受け入れられませんでした。

図10. BCIRAによる方法

 

4-2. ビスマス入りカップ

Pingら [14] によって、NiMg合金で黒鉛球状化処理をおこなった溶湯で、ビスマスを一定量装入したカップ用い冷却曲線を得、これからΔT(=TER−TEU)を計算し球状黒鉛鋳鉄の合否を判定する特許が公開されています。

  図11.NiMg合金添加量とΔTとの関係

図11.はビスマスを0.01%カップに装入したときのNiMg添加量とΔTとの関係を示しています。 ΔTが9℃以上のとき溶湯は全て完全な球状黒鉛鋳鉄となったのでこれを判定基準としています。 特許の明細書には、ビスマスのほかSb, PB, Tiのカップへの装入や希土類を含有する球状化処理剤を用いた場合に付いても述べていますが、明確な基準を持つのは上述の組み合わせのときのみです。 

 

4-3. テルル入りカップ

日本サブランスプローブエンジニアリング [15] は試料の0.3〜0.5%のテルルを装入したカップを用い、CV黒鉛化または黒鉛球状化処理剤の有無を判定し同時にテルルが装入されていないカップで球状化率を判定する方法を出願し、特許としています。 これまで述べてきたように黒鉛球状(CV)化処理前の溶湯と完全に球状化された溶湯から得られる熱分析曲線の特徴、特にdT/dtの値はこれらの溶湯間では識別が困難なので、テルルを装入したカップでマグネシウムの有無を判定し、テルルの無いカップにより球状化率を判定するものです。 テルル入りのカップでの判別は4-1.で紹介したBCIRAの方法と同じ原理を用いています。 この方法は処理剤の添加忘れや未反応等には有効であるが黒鉛球状化率判定そのものの判定は従来の方法と変わりません。

5. シンターキャストによる方法

5-1. 測定用プローブ

図12.はシンターキャストの方法 [16] による熱分析用プローブです。 このプローブには熱電対が組み込まれておらず、中央部にあるプロテクトチューブに2対の多数回測定用熱電対を装着して測定を行います。 冷却曲線の測定個所は、底部壁側と中央の2箇所です。

      

図12.測定用プローブ

溶湯注入口は、サンプル室の全周から迅速かつ均一に溶湯が容器内に一定量満たされるようになっていて、測定者はCV処理後の溶湯をやや大きめのスプーンで採取し、プローブを底部から浸漬します。 これにより試料採取容器は溶湯が侵入する前に予熱され内壁面にチル晶層の発生を最小限に押さえることが出来、その後内部に向かう凝固の進行がより実際の鋳物に近い状態を作り出しています。 この事は、一方で溶湯温度のバラツキを緩和する効果もあります。 壁面の加熱は侵入する溶湯自体で溶湯の侵入前におこなわれますので溶湯温度と壁面温度の差はプローブの溶湯への浸漬時間も多少影響がありますが、ほぼ一定になります。 試料採取容器に溶湯が侵入後、測定者はスプーンをプローブから外すことで試料採取容器中の溶湯の自然冷却が開始されます。 一般に市販されているシェルカップでは、冷却開始より初晶オーステナイトの核生成までの間の冷却速度は溶湯温度に左右され、この変化が初晶温度に変動を与えますが、このプローブでは前述のように溶湯のサンプル壁面からの急冷を防ぐことで、この変動を最小限にしています。 また、プロテクトチューブを介して試料採取室に組み込まれた熱電対はシース型を用い小型化することにより時間遅れ誤差を最小にし、 一般のシェルカップより敏感に溶湯の変化を捉えることが出来、多数回(標準で150回、溶断まで平均約400回)使用可能なので、熱電対素線の持つロット間誤差が無くなります。 一般のシェルカップではカップごとに素線が異なるためカップ間でも数度の測定誤差を常に持つことが普通です。

図 13. 溶湯の対流

試料採取室に入った溶湯は図13で示すように対流が発生し、底部での溶湯が中央部の溶湯に比べ、流動しないために壁面との反応性がより大きくなります。 壁面にはマグネシウムと反応し易い元素を含む特殊な塗型を使用しており、マグネシウム濃度が壁面では中央部に比べ0.002%〜0.003%低い溶湯となります。 この減少量は鋳造プロセスでのマグネシウムのフェーディングの量に相当し、鋳込み終了時の溶湯の状態を推定することに用いられています。

5-2. 溶湯の評価方法

図14にプローブ内での凝固組織を示します。 前節で述べたように、マグネシウム濃度に差があるためプローブの底部壁面ではD型グラファイトが、中央部では芋虫状の黒鉛が見られます。 図15は、マグネシウム処理後のCV黒鉛鋳鉄の溶湯を測定した場合の冷却曲線(赤色の線は中央部熱電対、青色の線は底部壁面熱電対)で、上図はD型グラファイトがごく少量の場合で、下図は図14の場合のようにD型グラファイトの領域が大きい場合の冷却曲線です。 D型グラファイトの量は溶湯中に含まれるフリーマグネシウムの量に比例するものと考えられ、この量と底部壁面での冷却曲線から計算されるD型グラファイトの凝固潜熱は強い相関を持ちます。 下図中の青線に初晶停滞点のように現れているのがD型グラファイトの凝固潜熱による冷却速度の緩和の現れです。

また、2本の熱電対を用い冷却速度の異なる熱分析曲線を得ることにより、これまでの熱分析では知り得なかった接種(黒鉛核)のレベルの測定が可能となりました。  

図14. プローブ内での凝固組織

 

図15 冷却曲線(赤色:中央部熱電対、青色:底部壁面熱電対)

 シンターキャストでは黒鉛の凝固形態を表すために従来の黒鉛球状化率のみでは少なくとも溶融状態の特性を表すのには不十分と考え、接種及び黒鉛形状に関するインデックスを考案しています。 これらのインデックスは2本の冷却曲線から得られたdT/dt、TEU、ΔT(=TER−TEU)およびDTA(Differential Thermal Analysis)曲線により得られたD型グラファイトの量などから計算されます。 

6. ノバ・キャストの方法

直接黒鉛の形状を推定するのではないのですが、ノバ・キャスト社(スウェーデン)は試料の0.3%の接種剤(FeSi系)を装入したカップを用い、無添加のカップとの冷却曲線の違いから元湯の酸素レベルを推定し、CV黒鉛化または黒鉛球状化に必要な処理剤の添加量を推定するシステムを販売しています。 この方法は、ドイツのフリッツ・ウインタ社でCV黒鉛鋳鉄のインモールド法によるエンジン・ブロックの量産技術を確立するため利用されています。 この方法の基礎理論を開発したフリッツ・ウインタ社のランピック博士によると、「CV黒鉛の核生成と元湯の酸素の状態、即ち、フリー酸素とトータル酸素の関係には重要な関係がある。」と述べています。 更に、同博士は、熱分析で初晶温度に至る以前にカップ壁面にはデンドライトの生成が見られ、,粗大化しているか否かによってフリー酸素の量を推定できるとしています。 この基礎理論を元に、ノバ・キャストではCV黒鉛鋳鉄の量産方法を2ないし3ヶ月程度の試作試験と同社の凝固シュミレーションによる溶湯流れの把握及び同社の熱分析装置ATAS(エイタス)を利用して確立しています。

6-1. 溶湯管理としてのATASの利用

ATASは黒鉛の形状ばかりではなく、溶湯そのもの性質をチェックするために利用されています。マクロ及びミクロシュリンケージ、チル、逆チルなど溶湯の特性をチェックします。鋳込み前の溶湯をテルルの入っていないカップを用いて、図16のように得られた冷却曲線から

図16 ATASの測定画面

各種パラメータを算出し、これをデータベースに保存し、ルール型エキスパートシステムでオペレータに溶湯の特質、チルや引けの危険性を警告し、最適な接種量を提示します。これらの測定パラメータの決定は主に冷却曲線から得えられた微分曲線から計算されます。

        図17 ATASでの微分曲線とパラメータ

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鋳鉄鋳物のための状態図と熱分析
熱分析による鋳鉄成分の推定
CV黒鉛鋳鉄(CGI)の製造について

上記のページも参照下さい。

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参考文献

[1] 杉浦卓:鋳物 第52巻 第2号 P113

[2] 栗熊勉,牧村征雄,土井基邦,中山士郎: 鋳物 第58巻 第12号 P816

[3] 川村昭利:「熱電対温度計による温度測定技術」,アイ・エヌ・ジー,1991

[4] M. D. Chaudhari, R. W. Heine, C. R. Loper,Jr: AFS Transactions, 74-96, P431

[5] ダブリュー・イー・カーナー(株): 「TECTIP-K溶湯管理の手引き」

[6] L. Backerud, K. Nilsson, H. Steen:“Study of Nucleation and Growth of Graphite in Magnesium Treated Cast Irons by means of Thermal Analysis”, Swedish Institute of Metal Research, 1974.6

[7] D.M.Stefanescu, F.Martinez, I.G.Chen: AFS Transactions, 83-16, P205

[8] 木口昭二:「鋳鉄溶湯の性状及び材質判定に関する研究」,P99,日本鋳物協会,1987.10

[9] D.M.Stefanescu, C. R. Loper,Jr, R. C. Voigt, I.G.Chen: AFS Transactions, 82-71, P333

[10] I.G.Chen, D.M.Stefanescu: AFS Transactions, 84-30, P947

[11] 糸藤春喜、山田肇:鋳物 第67巻 第11号 P767

[12] Nova Cast AB:ATASU取扱説明書,1994

[13] 公開特許広報 平1-287247

[14] 米国特許:パテントナンバー5305815 1994.4.26

[15] 特許番号 第2510947号  登録日:平成8年4月16日

[16] 特許番号 第1835184号  登録日:平成6年4月11日